ヒギリ










フレリア天馬騎士団に入り、初めて心底惚れた相手。
この国の王子、ヒーニアス。
冷たくも優しいこの王子に、一生ついていくことを誓った自分。

彼の背中を追いかけ、いつしか肩を並べ。
そっと寄り添い合うようになって、遂に二人は結ばれた。
夢のような感覚に、ヴァネッサはただただ驚き、戸惑うばかり。

「もっと胸を張りなさい、ヴァネッサ。貴方は、幸せになるべきなのよ」
そう言って、そっと肩を支えてくれるのは同じように目標とした姉、シレーネ。
優しく、豊かな新緑のような髪と瞳は、いつもヴァネッサを慈しみ、力となるべく協力してくれたのだ。
そんな姉を差し置いて、自分だけが幸せになっていいのか。
たくさんの王子を慕う仲間たちを差し置いて、自分だけが。
こんな自分が、あの王子を幸せにできるのか。
そんな思いが、ぐるぐると目まぐるしく回っては離れないのだ。

その悩みを静かに聞いていたシレーネは、こくんと頷いて、こう言った。



「…あなた、ヒーニアス王子が昔、父上の王に嫁はどうするのだと聞かれたことを知っている?」
「?いいえ、」
「そうよね。あの人は、こう答えたの。「自分の横に立つにふさわしい、強い女性をいつか見つけます」ってね」
「……!」
「ヒーニアス王子って、適当で人の良さも見えないような愚王かしら?」
「いえ!そんなことなど!!」
その問いにすぐさま食いついた彼女に、シレーネはくすりと笑う。
「でしょう?貴方はその賢王たる王子の理想に適った、ということなのよ。貴方が自信を持たなきゃ、選ばれなかった人たちが悲しむわ」
「……そうで、すね…」
「いいのよ最初は不安でも。でも、いつまでもそうじゃ駄目よ。貴方は王女。暫くしたら彼に似合う素敵な女性になって」
「…はい!」
「ほら、顔を上げてヴァネッサ。貴方にはもう、皆がついてるわ。天馬騎士団の、仲間たちが」
「はい……!」

もう、怖がらない。
私は皆の上に立って、そして隣に並ぶ王子の、その場所へ。
振り返ることを止めて、ただ前を向いて!


「ありがとう、姉さん」
「どういたしまして。幸せになってね、ヴァネッサ」
「ええ!」


それは二人の流れる髪のように、鮮やかな新緑の日の出来事だった。










End


この姉妹は爽やかでいいなあ...。
王子に健気についていくヴァネッサが好き過ぎる。
少し逸れるけど、シレーネはギリアムとの支援が一番好きです。やばいかっこいいよアレ。 2013,7,8








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